第1回 テーマ「矩計」
はじめに
このブログのテーマは、木造軸組構法の住宅です。特に架構設計について、私がこれまで設計してきた実例をもとに紹介していきたいと思います。
私がハウスメーカーで仕事を始めたのは、1972年のことです。新人時代、私たちの世代は下小屋や現場で、棟梁方から直接、多くのことを教えていただきました。この50年の間、設計面ではCADの利用が進み、施工面では機械プレカットが普及しました。
現在では設計にAIを利用し、施工現場ではロボットを活用する時代を迎えようとしています。一方で、私は以前、AIに「矩計の寸法をどのような基準で決めたらよいか」と問いかけてみました。しかし、私が期待した答えは返ってきませんでした。
軸組構法のメリットの一つはオープン工法であることです。そのため、時代の変化に適応しながら変化を遂げてきました。多くの設計者が工夫をこらし、試し、現場からのフィードバックを通じて蓄積してきた設計方法は、まだ十分に整理され、共有されているとは言えないのではないでしょうか。
AIが今後さらに設計に利用されていくとすれば、AIが何を学ぶのか、そして私たちがどのような設計情報を残していくのかが重要になるのではないかと思います。
このブログでは、SYLVANIA DESIGNがこれまで設計してきたことを一つの例として紹介します。それを通して、多くの方と意見を交換し、さまざまな考え方や実例についての情報を蓄積し、共有してゆくことを目指しています。
ブログのタイトルを「工法集(くほうしゅう)」としたのは、敬愛する先達の伊藤景治氏の著書『数寄屋工法集(くほうしゅう)』にあやかりたいとの願いからです。
第1回は、2階建て木造住宅の基本矩計です。
矩計は、建物の高さ方向の寸法や各部の納まりを決めるための基本となる図面です。矩計図は伏図と併せて架構設計の内容を示す図面です。従って伏図と矩計図は同時並行して検討すべきものと思います。しかし、伏図は次回以降に譲り、第1回は普段話題になることの少ない矩計図に焦点を当てて、このブログをスタートしたいと思います。
SYLVANIA DESIGNでは、矩計寸法をこの基本矩計図の寸法に固定している訳ではありません。要求される室内空間・外観デザイン・法令上の制限などに応じて寸法を調整します。しかし、基本矩計寸法から変更する場合も一定のルールで設計してきました。概ね8割の物件はこの基本矩計図の寸法を採用してきました。都市郊外の住宅地が主な敷地だったためです。農村部など敷地が広い場合、都市商業地に隣接する住宅地などでは当然寸法は異なることになると思います。地域の特殊性については読者の皆様からの情報提供を期待しています。

図1は基本矩計図です。仕上げ材等の情報の記入は省略し、架構設計に限った情報を表示しています。
SYLVANIA DESIGNでは、矩計を次のような基準で設計してきました。
① 高さ寸法も平面同様910モジュールで決めます。
② 軸組の基準線を土台上端とします。
③ 構造ブロック桁の寸法を1階は270,2階は210に統一します。
④ 1階と2階の横架材間距離を同寸とします。
⑤ 土台上端から1階床まで、胴差上端から2階床まで高さを同寸とします。
⑥ 図面の右側に設計GL基準の寸法、左側には土台上端基準の寸法を表示します。
① 910モジュール寸法について
横架材間距離の基本寸法は2670mmとしています。これは、2730-60=2670mmとして決めています。尺貫法では8尺8寸に相当する寸法です。
躯体寸法は30㎜を最小単位としていますが、階高などの寸法は最小単位1㎜になっています。
先に加工・組立される躯体の寸法に端数を用いないことをSYLVANIA DESIGNでは優先しています。
躯体の寸法を整理しておくことが、躯体以外の部分の寸法を検討する場合にも、現場で図面を読む場合にも判りやすいと思います。

②軸組の基準線を土台上端にします。
軸組の基準線は土台上端にします。これは、軸組の加工に必要な寸法を考えるためです。設計GLを基準とする寸法もありますが、軸組の加工寸法については、土台上端を基準として寸法を考える方が合理的です。
図面では、建築確認申請のために必要な基準と、軸組加工のための基準を分けて表示しています。建築確認申請に必要な寸法は設計GL基準で表示しています。

③ 構造ブロック桁の寸法を統一する
構造ブロック桁の寸法は、1階を270mm、2階を210mmとして、基本的に統一しています。
構造ブロック桁の用語は一般的ではありません。このことは次回以降の伏図の回に詳しく説明します。ここでは、1階構造ブロック桁は胴差・2階構造ブロック桁は軒桁という理解で充分と思います。
但し、切断面だけでなく胴差は1階すべて同寸・軒桁も2階すべて同寸で設計します。

④ 1階と2階の横架材間距離を基本同寸とする。
1階と2階の横架材間距離は、基本的に同寸としています。
ただし、すべての建物で機械的に同じ寸法にするということではありません。
例えば、斜線制限などによって階高を低くする必要がある場合には、寸法を変更します。その場合でも、1階・2階とも基本寸法から30mmの整数倍を減じることを基本としています。

⑤ 1階と2階の床高さを基本同寸とする
1階と2階の床高さについても、原則として同寸とすることを基本としています。
ブロック桁の寸法を1階と2階で揃えた上で、各階の横架材間距離と床高さを揃えることによって、開口部下地の窓台と窓まぐさの位置、小壁の間柱と腰壁の間柱の長さなどを整理することができます。
各開口部下地(窓まぐさ・窓台・上下壁の間柱)はサッシ番号によって寸法が確定します。
床高さ寸法についても、すべての物件で必ず同寸にできるわけではありません。
1階と2階で仕上げ材の厚さが異なる場合や、1階に床暖房用のパネルを施工する場合、あるいは和洋室の床高さをバリアフリーに揃える場合など、物件ごとの仕様によって変更する必要があります。

⑥ 設計GL基準と土台上端基準
図の右側には設計GLを基準とした寸法を表示し、左側には土台上端を基準とした寸法を表示しています。
右側の寸法は、主として建築確認申請書に記載する項目に関係するものです。耐風必要耐力壁量の算定にも設計GLからの高さ寸法が必要です。
一方、左側の寸法は、軸組加工、面下地(羽柄材)加工に必要な寸法です。図の左側は構造パネルの割付を示しています。構造パネルは3×9板を使用し、上下の掛かり代は30mmとしています。特に構造用パネルをプレカットする場合、加工工場でも、施工現場でもこのパネル割り矩計は必須です。
このように、一枚の矩計図の中に、設計・確認に必要な寸法と加工・施工に必要な寸法を併記しています。
これは、矩計を単に建物の断面を表す図面としてではなく、設計から加工、そして現場施工へ寸法情報を受け渡すための図面として考えているためです。

寸法を統一することで生まれるもの
寸法を統一することで、柱・間柱・筋違・開口部下地・構造用パネルなど、各部の寸法を関連付けて決めることができます。
つまり、矩計の寸法を整理することは、単に図面を描きやすくするためだけではありません。
設計、加工、材料の割付、現場施工までを、一つの寸法体系の中でつなげて考えることができます。
これが、SYLVANIA DESIGNがこのような矩計のルールを設けてきた理由です。
次回に向けて
第1回のテーマは「矩計」としました。
今回紹介した矩計が唯一の正解ということではありません。
しかし、一つの実例を共有することによって、別の方法や考え方との比較ができるようになります。
設計者・プレカット工場・施工に携わる方々がそれぞれの経験や実例を共有することで、木造住宅の架構設計について、より多くの情報が蓄積されていくことを期待しています。
次回は、今回紹介した基本矩計をもとに、小規模な物件・大規模な物件・3階建てなど、いくつかのSYLVANIA DESIGNの実例を取り上げ、矩計のバリエーションを紹介したいと思います。


コメント